大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1803号 判決 1982年8月17日

控訴人

全逓信労働組合

右代表者

太田清治

右訴訟代理人

山本博

平田辰雄

小池貞夫

金子光邦

被控訴人

村上敏幸

被控訴人

上田学

右両名訴訟代理人

加藤康夫

右訴訟復代理人

廣瀬隆司

石川礼子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  求める判決

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文第一項と同旨。

第二  主張

当事者双方の主張は、原判決事実欄第二記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠

証拠関係は、次に付加するほか原判決事実欄第三記載のとおりであるから、これを引用する。

一  被控訴人ら

1  甲第三八ないし第四一号証を提出。

2  当審証人今永公男の証言を援用。

3  乙第五七号証の成立は認めるが、第五八号証の成立は不知。

二  控訴人

1  乙第五七、第五八号証を提出。

2  当審証人堀田昭夫、同大坪博の各証言を援用。

3  甲第三八ないし第四一号証の成立は認める。

理由

一請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二抗弁冒頭の事実のうち、被控訴人両名は、控訴人組合が昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号により同年同月二二日を申請書の提出期限と定めて実施した支部組合員に対する再登録申請に反対し、再登録申請書を提出しなかつたことは当事者間に争いがなく、抗弁の判断につき前提となるべき右再登録申請にいたるまでの経緯についての認定判断は、次に付加・補正するほか原判決理由二と同一であるから、これを引用する。

原判決の付加・補正<省略>

三次に、本件再登録が実施された昭和四五年当時、控訴人組合において、組合規約のうえに再登録申請制度に関する明文の規定がなく、また、再登録申請をしないことの効果として組合員がその資格を喪失するとの確定した慣習が存在しなかつたことについての認定判断は、原判決理由三と同一であるから、これを引用する(但し、原判決七七枚目―記録一〇一丁―表七行目の「発され」を「発せられ」と、同裏一一行から裏一行にかけて、同裏三行目の「発された」(二か所)を「発せられた」とそれぞれ改める。)。

四そこで、控訴人は、被控訴人両名が本件再登録申請書を提出しなかつたことにより自動的に控訴人組合の組合員としての資格を喪失したと抗争するので、この点について検討する。

1まず、控訴人組合の組合員資格の得喪に関する組合規約の規定を検討するに、同規約第三五条が組合員の資格につき「組合員の資格は規約第五条による郵政労働者であつて規約第三六条により組合に届出をし、中央執行委員会の承認を得たときにはじまり、規約第三九条による脱退または除名されたときに終わる。2 組合員はいかなる場合といえども、人種、宗教、信条、性別、門地または身分によつて組合員たる資格を失わない。」と規定し、同規約第三九条が脱退につき「脱退は次の場合による。一、退職二、死亡 三、除名 2 (省略)3 前項以外の理由により脱退しようとする者は、脱退の理由をあきらかにし、支部に申し出で、地区本部、地方本部を経由して中央執行委員会の承認を必要とする。4 (省略)」と規定し、同規約第四四条が組合員に対する制裁につき「組合員で次の各号に該当するものは制裁をうける。一、組合の綱領、規約および組合機関の決定に違反したとき。二、組合の名誉を著しく汚す行為のあつたとき。三、組合の秩序をみだしたとき。四、正当な理由がなく組合費および準組合費の納入を三カ月以上滞納したとき。」と規定していることは、いずれも当事者間に争いがない。 次に前掲<証拠>によれば、同規約には、次のような各規定のあることが認められる。

第三六条(加入)「組合へ加入しようとするものは、綱領、規約を認めた旨の誓約書と、組合費月額相当額をそえ、所在の支部に申し出で、地区本部を経由して、中央執行委員会の議を経てはじめて組合員となる。2 中央執行委員会は、組合員となることを決定した場合は組合費領収書を添付して本人に通知しなければならない。」

第四五条(審査委員会)「前条の制裁を審査するため、中央本部に審査委員会をおく。審査委員会の運営および構成は別に定める審査委員会規則による。」

第四六条(制裁の種類と決定)「第四四条に基く制裁は警告、権利停止、除名の三種とする。2 除名は支部または地方決議機関の決定により、地方本部執行機関或いは決議機関の賛成を経て、別に定める審査委員会に申請し、その答申により中央執行委員会の議を経て組合の決議機関の承認をうけなければならない。この決議は出席構成員の直接無記名の秘密投票による三分の二以上の賛成を必要とする。3 (省略)」

そして、以上のほかに組合員がいつたん取得した組合員資格を喪失する原因等について触れた規定は見当らない。

2ところで、一般に労働組合における組合員の資格の得喪及び組合員に対する制裁は、組合を構成する組合員に関する最も重要かつ基本的な事項であつて、組合員は組合の規約に定める組合員資格の得喪の方式あるいは制裁の方式に関する明文の規定がある限り、これ以外の方式によつてその資格を奪われあるいは制裁を科せられないことを保障されていると解すべきであるから、このような組合員資格の得喪及び組合員に対する制裁に関する規約の解釈については、特に厳格な態度を貫くべきである。仮に組合が組織的危機に直面するなど、非常緊急の場合に限り、団結権の維持強化のため、組合の規約に明文の定めがなくても、統制処分として組合員資格を喪失させることが可能であるとする見解に従うとしても、規約上統制処分として組合員資格喪失の方式に関する定めがある以上、これによらず右以外の方式に基づく統制処分により組合員資格を喪失させる措置をとりうると解することは、組合員の地位の保障もまた団結権に由来しているのであり、規約を潜脱した措置が超規約的統制処分と称して組合員の地位を保障した規約を空文化するおそれがあるので、これを肯認することはできない。

これを本件についてみるに、控訴人組合の規約上、組合員がその意思に反して組合員資格を喪失する事由として定めるのは、除名の制裁を受けたときを除いていないのであるから、組合員は右規約に定める除名の事由及びその手続によらないで、その意に反して組合員たる資格を失うことはないのである。してみれば、控訴人組合が本件再登録を実施した昭和四五年当時、組合規約に再登録申請手続に関する明文の規定がなく、また確立された慣習の存在も認められないにもかかわらず、控訴人組合が再登録申請書を提出期限内に提出しなかつた被控訴人両名につき超規約的統制処分として組合員の資格を喪失したものとして取扱うことは許されないといわなければならない。

なお、<証拠>によれば、本件再登録申請手続実施の結果については、昭和四五年二月二六日から同月二八日まで開催の中央委員会の承認を受け、さらに、その後開催の全国大会の承認をも受けていることが認められるけれども、この承認をもつて規約所定の除名の手続と同視することはできないから、右の事実があつたからといつて、被控訴人らにつき除名と同様な組合員資格喪失(剥奪)の効果を生ずるいわれはない。

3また、本件再登録申請手続の実施の経過は前記認定のとおりであつて、これによれば、控訴人組合は、昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号に基づき、支部組合員全員の組合員資格を一時停止するとともに、被控訴人両名を含む支部旧役員等については中央本部に敵対して組織を混乱に陥れた旧執行部派の首謀者として無期限の権利停止の仮制裁に付し、しかるのち、支部全組合員から「組合員再登録申請書」と題し「私は、控訴人組合の綱領、運動方針、控訴人組合中央本部の組織指導九項目および指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認し、組合員の再登録を申請します。」と記載された書面に記名押印してこれを同月二二日までに中央執行委員長宛に提出させたうえ、この再登録申請書を提出した者に対し、中央執行委員会が同月二三日から翌三月二日までの間に組合員としての適格性を審査し、これに合格して再登録したもののみを組合員として認めるというのであるから、支部旧役員としては他の旧役員及び青年部常任委員らとともに同指令により無期限の権利停止の仮制裁をうけていた被控訴人両名は、かりに期限内に右申請書を提出したとしても、とうてい審査で承認を得られないであろうことは見やすいところであるうえ、被控訴人両名は、組合員資格は組合に加入したときに既に取得しているのだから改めて再登録申請手続をする必要はないとして、脱退の意思が全くないのにもかかわらず、申請書を提出しなかつたというのであるから、右不提出をもつて、直ちに被控訴人両名が控訴人組合から脱退する意思を表示し又は組合員資格を放棄したものとみなすこともできない。

4以上に説示したところからすれば、控訴人の主張する本件再登録申請書の不提出による組合員資格の喪失は、実質において組合員の意思に反する組合員資格の剥奪にほかならないが、前述のとおり、規約に定める方式以外の方式によつて組合員資格の剥奪を認める余地はないのであるから、本件再登録申請書を提出しなかつたことにより被控訴人両名の組合員資格が剥奪されたものとすることはできない。

したがつて、控訴人の抗弁は理由がない。

五してみると、被控訴人らは現在もなお控訴人組合の組合員としての資格を有するものというべきであり、控訴人がこれを容認していないことも明らかであるから、被控訴人らのその資格の確認を求める本訴請求は理由があり、これを認容すべきである。

よつて、右と同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡垣學 手代木進 上杉晴一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例